6月の終わり、長野県松本市で開催された「信州ワインサミット2026」を訪れました。
長野県内のワイナリーが集まり、さまざまな信州ワインをグラスで楽しめるイベントです。
今回の旅は、東御市のワイナリーを夕方まで巡り、そのまま松本へ向かうという流れでした。
目的はもちろん、信州ワインサミット。
けれど、旅を終えて強く心に残ったのは、飲んだワインだけではありません。
ワインを勧めてくれた人、偶然同じ宿に泊まった人、松本の夜に立ち寄った小さなバー。
振り返ってみると、すべては一つの出会いから、次の出会いへとつながっていました。

東御市から松本へ
東御市で3軒のワイナリーを巡ったあと、車を走らせて松本へ向かいました。
この日の宿は、松本駅近くにあるカプセルタイプの宿泊施設「M Matsumoto」です。
荷物を置いて少し休憩し、会場となる花時計公園へ歩いて向かいます。
初日の会場は、週末ほどの混雑ではありません。金曜日の夕方らしい、少し落ち着いた雰囲気の中で、ゆっくりワインを選ぶことができました。

会場には、数多くの信州ワインが並んでいます。
こういう場所へ来ると、ソムリエの私でも迷います。
知っているワイナリーから選ぶか、まだ飲んだことのない一本にするか。
ワインリストを眺めていると、最初に目に留まったのが、西飯田酒造店の「メローズ リースリング1997」でした。

1997年というヴィンテージを見て、正直びっくりしました。
リストには「やや甘口」とあります。これだけ熟成したリースリングが、今どんな味わいになっているのか。
リースリングが大好きな私。これはぜひ飲んでみたい!
ただ、約30年熟成したリースリングを最初の一杯にするのは、少し違う気がします。
「これは最初じゃないな」
そう思ってほかのワインを探していると、会場にいたソムリエールの方が声をかけてくれました。
せっかくなので、おすすめを聞いてみることに。
その何気ない会話が、翌日の予定まで変えることになります。
最初の一杯は、華やかなモンドブリエ
ソムリエールの方に勧めてもらい、最初に選んだのは、有旅ワイナリーの白ワイン「モンドブリエGW」です。
ブドウ品種は「モンドブリエ」種を主体に、ゲヴュルツトラミネールをブレンドした面白い組み合わせ。グラスに顔を近づけると、花やライチ、マスカットを思わせる香りが広がりました。
香りはとても華やかですが、味わいはすっきりとした辛口です。

難しいことを考えなくても、素直に「いい香りだな」と楽しめるワインでした。
この日は自分で車を運転していたため、東御市のワイナリーでは試飲をせず、購入だけにしました。
信州ワインサミットに着き、ようやく口にできた、この日最初の一杯です。
ワインを選ぶときは、知識がないといけないと思われがちです。
けれど、ラベルや品種、説明を見て、なんとなく気になったものを選ぶ。それくらいでも十分だと思います。
旅先では特に、直感で選んだ一杯が思い出に残ることがあります。
約30年の時間が詰まったリースリング1997
モンドブリエGWを飲んだあと、最初から気になっていた西飯田酒造店の「メローズ リースリング1997」を選びました。
1997年。
グラスに注がれたワインからは、長い時間の重みが伝わってきます。

香りを取ると、私には紹興酒やシェリー酒を思わせるような、熟成したニュアンスが感じられました。
それでいて酸はきちんと残り、口の中には穏やかな甘みも広がります。リストには「やや甘口」とありましたが、実際に飲んでみると、思っていたよりもドライな印象でした。
ただ古いだけではありません。
長い時間を経たからこそ生まれた、複雑で不思議な味わいです。
個人的には、とても好きなワインでした。
ただ、普段あまりワインを飲まない人にとっては、少し難しく感じられるかもしれません。
ソムリエールの方が、こんなことを話してくれました。
「去年飲んだときは、もっとドライな味のワインだったんです」
その言葉を聞き、ワインは瓶に詰められた瞬間に完成するものではないのだと、改めて感じました。
静かな瓶の中で、ゆっくりと変わり続ける。
一年後に飲めば、また違う表情を見せるかもしれません。
同じ一本なのに、飲む時期によって出会える味が変わっていく。
ワインって、本当に神秘的な飲み物だな。
このリースリングを飲みながら、そんなことを思いました。
食事と合わせるなら、中華料理も面白そうです。
紹興酒のような熟成した風味と穏やかな甘みが、少し濃いめの味付けにも寄り添ってくれる気がしました。
「Kidoは早く売り切れる」と聞いて
ソムリエールの方との会話の中で、Kidoワイナリーのワインは早い時間に売り切れることが多いと教えてもらいました。
この日も、すでに飲むことができませんでした。
「明日は、最初にKidoへ行った方がいいですよ」
その一言で、翌日の一杯目が決まりました。
本来なら、スパークリングワインから始めたいところです。
けれど、翌日はそんなことを言っていられません。
泡は逃げなくても、Kidoは逃げる。
宿へ戻る前に居酒屋へ立ち寄り、ビールを飲みながら、会場でもらったワインリストを眺めました。
翌日は何を飲もうか。
そんなことを考えている時間も、ワインイベントの楽しみの一つです。
2日目は、tabi-shiroへ
翌朝、M Matsumotoをチェックアウトし、2泊目の宿「tabi-shiro」へ向かいました。

tabi-shiroは、バーやサウナを併設し、ジェラートも楽しめるゲストハウスです。
宿泊先を探していたとき、ゲストハウスの写真を見て直感的に「ここに泊まってみたい」と思いました。
前日に東御市で購入したワインと荷物を預け、身軽になって再び花時計公園へ向かいます。
土曜日の会場は、前日の夕方とはまったく違う雰囲気でした。
ただ、この日の私には、会場をゆっくり眺める前に頼むと決めていたワインがあります。
前日に飲めなかった、Kidoワイナリーです。
泡より先に、Kidoワイナリーへ
会場に着くと、迷わずKidoワイナリーのワインを注文しました。
前日に教えてもらったとおり、まずは泡より先にKidoを選びます。
注文したのは、「プライベートリザーブ マスミ・ブラン」と「プライベートリザーブ シャルドネ」。
どちらも数量限定の人気ワインで、2種類を注文するには、会計を別々にする必要があるという特別ルールまで設けられていました。
会計を二度済ませ、ようやく2種類を並べて味わうことができました。

マスミ・ブランは、なんとこのイベントで最後の一本でした。
もう少し到着が遅ければ、また飲むことができなかったかもしれません。
「昨日、教えてもらってよかった」
最後の一本に間に合ったことも含めて、印象に残る一杯になりました。
ライチやバラ、白コショウを思わせる華やかな香り。
ゲヴュルツトラミネール、リースリング、ピノ・グリ、ケルナーが使われていますが、品種の名前を知らなくても、その香りの豊かさは十分に楽しめます。
華やかでありながら、味わいはきれいな辛口でした。
一方、シャルドネで特に印象的だったのは、ミネラル感と樽のニュアンス、そして口の中で大きく広がっていくようなスケール感です。
飲んだ瞬間、ムルソーやカリフォルニアのキスラーを思い出しました。
もちろん、同じワインという意味ではありません。
樽の使い方や味わいの広がりから、以前飲んだワインの記憶が、ふっとよみがえったのです。
華やかな香りを楽しめるマスミ・ブランと、ミネラルや樽、広がりを感じるシャルドネ。
同じ造り手の白ワインでも、二つを並べると、それぞれの個性がはっきりと見えてきます。


Kidoワイナリーの白ワインを飲みながら席で過ごしていると、ステージの生演奏が始まりました。
噴水では、子どもたちが楽しそうに遊んでいます。
ワイングラスを片手に音楽を聴く人もいれば、家族でのんびり過ごしている人もいました。
数曲の演奏が続き、最後の方に流れてきたのは「ウイスキーがお好きでしょ」。

ワインイベントで、ウイスキーの曲。
そんな少し肩の力が抜けた空気も、このイベントの魅力でした。
2種類を並べて楽しむ、スパークリングワインの比較
Kidoワイナリーの白ワインを楽しんだあとは、スパークリングワインを2種類、一緒に注文しました。
一つは、キリノカヴィンヤード&ワイナリーの「杜音 ラ・ゴッチャ シャルドネ/ピノ・ノワール ロゼ ブリュット」。
もう一つは、アンワイナリーの「アンの泡 Blanc de Noirs」です。

Blanc de Noirsとは、黒ブドウを使って造られる白のスパークリングワインのこと。
二つのグラスを並べ、香りや泡立ち、味わいの違いを比べながら楽しみました。
ラ・ゴッチャのロゼは、思っていたよりも泡が穏やかに感じられます。
少し気になったためソムリエールの方に確認すると、ブースへ戻り、別のボトルの状態まで確かめてくださいました。
そちらも同じような状態だったそうです。
別のボトルの状態まで丁寧に確認してくださったことが、うれしく感じられました。
どちらも、シャンパンと同じ瓶内二次発酵という製法で造られたスパークリングワインです。
個人的には「アンの泡 Blanc de Noirs」の方が好みでした。
泡の心地よさがあり、味わいにも落ち着きがあります。
同じスパークリングワインでも、並べて飲むと、泡の強さや口当たり、余韻の違いがよく分かります。
それが、比較テイスティングの面白さです。
売り切れていたリュードヴァン2023と、会場で再会
赤ワインも、2種類を一緒に注文して飲み比べました。

選んだのは、リュードヴァンの「ピノ・ノワール2023」と、楠わいなりーの「Special Cuvée Pinot Noir 2021」です。
前日に訪れたリュードヴァンでは、ピノ・ノワール2025を購入しました。
もう一つ気になっていた2023年は、そのときすでにワイナリーで完売していました。
もう飲む機会はないかもしれないと思っていたワインです。
それが、翌日の信州ワインサミットの会場に並んでいました。
「ここで2023年に出会えるとは」
見つけた瞬間、これはぜひ飲んでみたいと思いました。
前日に訪れたばかりのワイナリーで、もう買うことができなかったワインに、翌日、別の街で出会う。
こういう偶然も、ワインイベントならではの面白さです。
グラスに注がれた2023年は、華やかな香りと、繊細で上品な味わい。
派手に主張するタイプではありません。けれど、飲み進めるほどに、凛とした美しさが伝わってきます。
今回の信州ワインサミットで最も心に残った一本を選ぶなら、このワインかもしれません。
単に味が好みだっただけではありません。
前日に東御市のリュードヴァンを訪れ、そこで買うことのできなかった2023年に、翌日、松本の会場で再会した。
その流れも含めて、この旅を象徴する一杯になりました。
リュードヴァンのロゼとスシローのマグロを合わせた記事はこちら
予算オーバーでも飲んでみたかった、楠わいなりーのピノ・ノワール
比較するもう一つのワインは、楠わいなりーの「Special Cuvée Pinot Noir 2021」です。
60mlで約1,800円。


正直に言えば、当初考えていた予算からは少しオーバーしていました。
それでも、この機会を逃したら、なかなかグラスで飲むことはできないかもしれません。
せっかくここまで来たのだから、思い切って頼んでみよう。
そう考えて選びました。
すると、対応してくださったソムリエールの方が、
「せっかくなら」
と、新しいボトルを開けてくださいました。
快く新しいボトルを開けてくださったことに、ワインそのものだけでなく、その心遣いにも感動しました。
こうした人とのやり取りまで含めて、記憶に残る一杯になったのだと思います。
味わいは、リュードヴァンよりも果実味が豊かで、スパイスを思わせる風味も感じられました。
同じピノ・ノワールでも、二つを並べて飲むと、その違いははっきりしています。
リュードヴァンの繊細さと凛とした美しさ。
楠わいなりーの豊かな果実味と、より力強い表情。
どちらが優れているということではありません。
それぞれの個性を味わいながら、二つのグラスを行き来する。その時間そのものが楽しかったのです。
会場で購入した鹿ソーセージと合わせると、肉の旨味と赤ワインの果実味がよくなじみました。

信州ワインだけでなく、地域の食と一緒に楽しめるのも、ワインサミットのいいところです。
蕎麦と銭湯、松本の夜
ワインサミットを楽しんだあとは、歩いてtabi-shiroへ戻りました。
夕食は、宿で教えてもらった「吉邦」へ。
ワインを何杯も飲んだあとに食べる蕎麦は、どこかほっとする味でした。
その後は、昔ながらの銭湯「塩井乃湯」へ向かいます。
イベント会場のにぎやかさから離れ、湯船につかって一息。
旅先で入る銭湯には、温泉とはまた違った良さがあります。
地元の人の日常に、少しだけ混ぜてもらったような気分になりました。


tabi-shiroのソファで、一日を振り返る
銭湯から戻ると、tabi-shiroの共有スペースにあるソファに腰を下ろしました。

すぐ隣には、バーカウンターがあります。
信州ワインサミットで飲んだワインや、吉邦の蕎麦、塩井乃湯で過ごした時間を思い返しながら、1時間ほどゆっくり休みました。
しばらくすると、もう一杯飲みたくなってきます。
そこで、すぐ隣のバーカウンターで一杯飲むことにしました。
tabi-shiroのバーで始まった会話
注文したのは、ノバラホームステッドブルワリーの「ウタカタ」というクラフトビールです。
食用花としても知られるエルダーフラワーと、シャンパン酵母を使った一本。華やかな香りがありました。
ビールでありながら、どこかワインを思わせる上品さがあります。
オリジナルのグラスも素敵で、思わず写真を撮りました。

カウンターには、宿泊者や地元の人が少しずつ集まり、自然に会話が始まっていきます。
サウナ好きで「サ旅(さたび)」中の人。
県外から松本での就職を目指している人。
知人に勧められて泊まりに来た人。
松本市内に住む地元の人まで。
それぞれ立場は違っても、たまたま同じ夜に同じカウンターを囲んだ人たちです。
スタッフの方が、
「今日は久しぶりに、このカウンターがちゃんと機能していますね」
と笑っていました。

知らない人同士が話し、いつの間にか一緒に飲んでいる。
ゲストハウスのバーらしい、心地よい夜でした。
同じ宿に泊まっていた方と話しているうちに、
「もう少し飲みたいですね」
という流れになります。
その会話を聞いていたスタッフの方が、外へ飲みに行こうと声をかけてくれました。
縄手通りのElbow Roomへ
最初に向かった店は、すでに閉まっていました。
そこで、スタッフの方が連れていってくれたのが、縄手通りにある「Elbow Room」です。


スタッフの方が普段から訪れている店でした。
一人で歩いていたら、入ることはなかったかもしれません。
小さなバーには、松本の日常に溶け込むような、落ち着いた空気がありました。
スタッフの方は、海外から松本へ移住した方と楽しそうに話しています。
私も同じ宿に泊まっていた方と、酔いも手伝っていろいろな話をしました。
気がつけば、閉店時間。
何を話したのか、すべてを細かく覚えているわけではありません。
それでも、知らない街で、少し前まで知らなかった人と同じ時間を過ごしたことは、今もよく覚えています。
深夜の松本城を眺めながら
Elbow Roomを出たのは、午前1時ごろでした。

帰り道に、松本城の近くを歩きます。
この時間にはライトアップも終わり、周囲は静かです。
深夜の松本城を眺めながら、自然に思いました。
「いい夜だったな」
こういう何気ない時間こそ、旅では一番心に残るのかもしれません。
人生とは、出会いである
今回の旅で心に残った出来事の多くは、最初から計画していたものではありませんでした。
ソムリエールの方との何気ない会話から、翌日はKidoワイナリーの「マスミ・ブラン」最後の一本に間に合いました。
前日にワイナリーで売り切れていたリュードヴァンのピノ・ノワール2023とは、翌日の松本で再会。
そして、直感で選んだtabi-shiroでは、偶然同じ日に泊まった人やスタッフとの会話から、Elbow Roomで過ごす夜へとつながっていきました。
旅の予定を立てることは大切です。
けれど、本当に心に残るのは、予定の隙間に生まれた時間なのかもしれません。
気になるワインを選んでみる。
なんとなく惹かれた宿に泊まってみる。
声をかけられたら、一緒に出かけてみる。
そんな小さな直感が、思いがけない出会いを連れてきてくれました。
ワインを飲み、街を歩き、人と話す。
一杯のワインから始まった出会いが、松本という街を忘れられない旅にしてくれました。
松本で過ごした2日間を振り返りながら、改めて思います。
人生とは、出会いである。
信州ワインサミット2026 基本情報
- 会場:松本市・花時計公園
- 訪問時期:2026年6月
- 最寄り:松本駅
- 楽しみ方:複数のグラスを並べた比較テイスティング
- 人気ワインは早い時間に売り切れる場合あり


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